「夜の廊下、共有する、犬」

 じーじー、と虫の鳴く声が微かに響く。 私の隣に座って夜空を見上げる皐月を見る。皐月はいつも冷静で落ち着いている。ふと自分の腕を見ると、虫が止まっていた。
 悲鳴を上げそうになった私に気づいた皐月がさっと虫を取ってくれた。「夜の廊下では声が響くわよ」、と窘められる。
「皐月って苦手なものないの? いつも冷静」
 そう訊いた私を数秒見つめ、彼女は目を伏せて静かに言った。
「……犬」
 犬? 見ると普段顔色の変わらない皐月が顔を真っ赤にしている。可愛い。
「皐月、顔真っ赤ー」
 頬をつつく。髪に触れる。やめてよー、と抵抗する皐月に私は言う。
「抵抗すると犬、誰かに言っちゃうよ? ……秘密を共有する、ってこういうことかなー」
 皐月の呆れた顔も気にせず、私は彼女に触れるのをやめない。

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