すぐ家の近くにある教会の鐘が鳴り響きます。正午。ちょうど太陽が真上にあるという時刻です。
今日は平日、祝日でなければ建校記念日でも御座いません。学校をお休みしてしまいました。別段具合が悪いとか、そういうことでも御座いません。強いて言えば心の病、なんて、甘えが過ぎるでしょうか。
布団を敷いたまま、寝間着のままで私は横になっています。気怠く、何をする気にもなれません。窓の格子から入る光がきらきらと輝いて、部屋の中に白い筋を作っております。
その反対側には、神のお写真がございます。ふいに紫の額縁の中のお顔と目が合って、私は大変決まりが悪く、布団に潜り込んで頭を隠します。自分が酷く嫌らしく、卑しく思われます。
目を閉じても、耳を塞いでも、私の心の裡でNが笑っているのです。時折見せる上辺だけの微笑み、台本を違えず演じ切ったあとのような誇らしげな笑顔、ソンなものでは御座いません。高らかに気分良く、心から込み上げてくる愉快に逆らわず、体裁を繕うこともなく、笑っているのです。私はNのそういった笑顔を永らく見たことがない、イイエひょっとすると一度も、見たことがない。こう思っておりました。けれどもこの一週間、彼女と自分のことを事細かに見つめ、また改善策を立て、何一つ漏らさず神にお伝え申し上げられますよう、努めて参りました。現実蓋を開けてみますと、私の見当違いの疑念を裏切って、Nは友人と話してはおかしそうに、純粋無垢に、笑っておりました。
そのことに私は気がついておりませんでした。エエ、確かに、私の感じていた通りの薄い空っぽの微笑みをNは時たま漏らしもします。けれども、けしてそればかりでは御座いませんでした。私は気がついたので御座います。私がNを見つめ話をしたり、他の友人との会話の内で彼女に助けを求めるような時、ソンな時の表情と、彼女が他の友人と話している時の表情はまるきり違いました。私と面と向かって対峙する際のNは、Nの生の心という感じがまるでせず、彼女自身彼女を遠くから見ているような、心ここにあらずといった様子なので御座います。
こんな状況で私はどうしても胸が痛んでまいりまして、どうにも耐え切れず涙さえ流したい心境なので御座いますが、外見にはただ憎々しい顔をした私がいるだけでありましょう。布団のなかで蠢き、自分に楽な体勢を探す私はまるでどこかの虫のようでありました。しかしよくよく考えてみると自分が虫にも満たないようにさえ感じられ、またそのことが更に私を貶めていくので御座います。
母は、私の今日の不実を知りません、キットこの先知ることはないでしょう。コンな不真面目な行いをしたのは初めてで御座います。私は須く後ろめたさや罪悪感に苛まれるものだと思っておりました。しかし、私は思ったよりもずっと、節度のない、はしたない娘であったようで御座います。エエ、辺りを憚らずに申せば、今私は自己への呵責などまるっきり欠いております。それどころでは御座いません。弁解すれば、私はNの幻想に耐えるのが精一杯で、他のことなど何一つする余裕さえないので御座います。
布団に埋もれた目の前は真っ暗で御座います。慣れ親しんで最早ハッキリと感じることのできない、我が家の香りが私を責め続けております。そうして、ソンな状況の下、Nのことを思い出す――これは大変、おかしな心持ちを引き起こします。これまでに、そういった経験がないとは申しません。私は気がつけばNとの関係について考えておりました。けれども、四六時中考えていた訳では御座いませんでした。それが、先生のお言葉を聞いてから、いえ、その晩の決心から、私は、Nと共にいる時まででなく、他の友人といる時、一人の時でさえ、Nのことを考えるようになりました。一度ついてしまった習慣はこびりついてしまい、すぐには振り払えないようで御座います。それからというもの、何をするにつけてもNの顔が――私には見せないあの心からの笑顔が、自然と思い出され、私の心を苛んでおります。
コンな良いお日柄に学校を休んで、あの素直な級友達はドンなことを言っているのでしょう。私が居ないところでNは、あの笑顔を浮かべているのでしょうか。
穏やかな風が窓を揺らし、かたかたと音を立てております。外へ出て、あの風に吹かれたのなら、髪の毛が揺れ、服が少し乱れてしまうでしょう。けれど、多少の不恰好さえ気にかけなければ、それは底知れぬ喜びをも与えてくれるように思われます。そう思うとすぐに、心地良い風に髪をなびかせて笑うNの顔が浮かび、私はきゅうと苦しくなってしまいました。

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