小さい大人

「希美ちゃんはクリスマスプレゼント、何を貰うの?」
 壁にかかったメリークリスマスの文字は、赤と緑にきらきらと輝いている。わたしから見えるのは飾り立てられたクリスマスツリーと、輝く壁の飾り、そして希美ちゃん。いつもの殺風景なわたしの部屋ではないみたい。心なしか明かりも暖かなオレンジ色に感じられて、空気までもが眩しい。
 希美ちゃんは、栗色の髪が綺麗な、フランス人形みたいな可愛い子。こっちをにこにこと無邪気に見てくる、小さな顔。小さな口から覗く歯が、可愛くって桜貝のよう。高校生にもなるのにか弱くいじらしく幼げで、身長もわたしの胸に届くくらいにしかないし、皆歳の離れた妹のように蝶よ花よと大切にする。
 冷たい風の入ってこない温かな部屋。わたしは希美ちゃんの向かいに座る。テーブルの上のお菓子はコンビニやスーパーで買ったものだけれど、リボンのついたバスケットに入っているとそれなりに見える。希美ちゃんが手に持つと、もうちょっと素敵に見える。
「サンタさんに?」
 笑いながら訊く希美ちゃん。流石にサンタさんの秘密は知っている。どんなに幼く見えようとも、中身はしっかり高校生だ。やっぱりとてもそうとは思えないけれど。
「そう、サンタさんに」
 んー、と斜め上を向き一瞬考えて、希美ちゃんはこともなげに言う、
「わたしは何も貰わないわ」
「えっ、どうして? もう駄目って言われたの?」
「言われてない。皆何が欲しいのって訊いてくる」
  希美ちゃんはつまらなさそうに横を向いて、窓の外を眺めた。無邪気なだけに、自分の興味のないことには付き合う素振りも見せない希美ちゃん。それがじれったくって、悔しくって、皆は希美ちゃんにあれやこれやと楽しい話を持ちかける。機嫌を損ねるのは怖くないけれど、やっぱり笑っていてもらう方がいい。そう行って、先生も、女子も男子も、皆希美ちゃんに構っていくのだ。希美ちゃんは家族にも大切にされている。服についた薄いピンクのさりげないリボンが、希美ちゃんと一緒にゆらゆら揺れる。
「でもね、わたしは貰わないの。だってもう大人だから」
「大人って。まだ高校生じゃない」
 小さいなりで大人なんて言う、それがおかしくってわたしは笑ってしまった。
 ちっちゃな希美ちゃん。やわらかそうな希美ちゃん。高校に上がったばかりだけれど、中学校に上がったばかりのように見える。きっと卒業するまで経っても変わらないんだろうと思う。希美ちゃんはずっと前からそこにいたように、何も変わらない。時が止まったみたいに。
「そうよ、高校生。でも知ってる、セックスしたらもう大人なのよ」
 希美ちゃんは顔色ひとつ変えずに言うものだから、わたしも何だかよくわからない。
「そうなのよね、そうなのよ。まったく、今日は――寒いから。希美ちゃん、体を冷やしちゃ駄目よ」
「ありがとう。気をつける」
 白いマフラーを巻いて、希美ちゃんは立ち上がった。いつものように小さく頼りない姿。作り物みたいな足先。
「あ、もう時間? ひきとめちゃってごめんね」
「いいのよ。楽しかったから」
 別れ際はなんとなく名残惜しい。明日また学校で会うのはわかっているし、一生の別れでもないのに。
「じゃあね、希美ちゃんまた明日」
「うん、また明日」
 希美ちゃんは飴細工みたいに艶やかな白い手をドアにかけて、何かを思い出したように、あ、と声を漏らした。
「葵ちゃんは、クリスマスプレゼント、何を貰うの?」

 ――まだ考えてないや。
 わたしはどうにも悲しくなってきて、子供みたいに泣いてしまった。