意識と愛玩方法

竹田楓の第一印象は、『五月蝿い』。
その五月蝿さと言ったら、授業中に感じる苛つきの原因は全て彼女にあるんじゃないかと思う程だ。ただ、彼女は授業を妨害しようとかそんなことを思っているわけではなく、ただ単に口を閉じていられないらしい。それにしたって五月蝿すぎるのだけれど。
彼女とは去年はクラスは違ったが選択授業が一緒で、その五月蝿さからすぐに名前を覚えられた。そして今年同じクラスになって、運が悪いと思うと同時に少し話してみたいとも思った。しかし生憎私は社交的なタイプの人間ではなかったので、いつまでたっても話しかけることすらできなかった。新しいクラスに知り合いは多くいたし、特別彼女と話す必要もなかったのである。
それでも――彼女と話してみたいという気持ちは私の胸のうちで日々降り積もっていった。
「じゃ、お願いね」
にこにこと笑いながら言う教師を見て、普段は軽い殺意のこもった視線を投げかけてみたりするものだが、今日は違った。何故なら、私が頼まれたのは彼女――竹田楓と一緒にプリントをまとめることなのだから。偶然そこにいたというだけで指名された。私はなんて運がいいんだろう。
いや、運は悪かったのかもしれない。放課後、誰も普段入らない部屋で竹田楓と二人きり。会話なんてあるはずもない。彼女は五月蝿いがそれも親しい間柄での話だ。気まずい空気が流れている。突然竹田楓が口を開いた。
「あのさ、ごめんね? 私が先生に捕まっちゃったからつき合わせちゃって」
別に彼女は原因に全く関係ないのだけれど……何かよくわからないが申し訳ないと思っているらしいので、取り合えず言葉を返してみる。
「全然良いよ。それより竹田さん、部活平気?」
竹田楓はバレー部に入っている。
「ああうん、今日は平気……あ、そっちのプリント頂戴」
何の気なしにプリントを手渡す。
「これもう使わないよね? 先生に渡してくる」
「え? でも最後にまとめて返したほうが良いでしょ?」
え、と彼女は不思議な顔をする。数秒して、そっか、と呟いた。
何を考えているのか、全く分からない。どういう筋道を立てたらそうなるのかさえも。プリントは他にもあるから最後にまとめて返せばいい、という考えに至るのは普通ではないのか。こんなことで目くじらを立てても仕方がないのはわかっているが、どうにも理解できない。けれどその後も彼女は意味のわからないことを言いつづけた。
何度目かの説得の後、彼女も自覚したようで私に任せてくれるになった。少し打ち解けたのか、軽い冗談も言えるようになった。自分が竹田楓とこんな風に仲良く話しているなんて。
そう思ってふと彼女を見ると、いきなり頬を打たれた。一瞬何が起こったかわからなかった。ぱちん、と音がした。
「竹田っ」
少し苛ついた声で彼女を呼び捨てにした。不思議な高揚感があった。竹田楓は笑っている。――意味がわからない。
次の日、学校で竹田楓を見て。笑いながら友達と話す彼女を見て。どうしようもなく、彼女に暴力を振るいたくなった。勿論昨日話したばかりでそんなこと許されるはずもないし、しないけれど。ぱちんと音を立てて、彼女の頬を打ちたい。そんな欲求が渦巻く。