考察と幽光追憶

竹田楓と目が合う。不機嫌な顔を作って、ふん、と顔を逸らす。すると彼女はこちらに近寄ってきて、「何?」と訊いてきた。少し笑いを浮かべて。
「別に、何でもない」
「あっそう。じゃあそんな態度やめてくれますー?」
「竹田さん、段々私に馴れ馴れしくなってきてない?」
そっちこそ、と竹田楓は笑う。そんな彼女はとても可愛い。
最近はこんなことばかり繰り返している。初めは確かに楽しかったのだが――最近邪魔が入るようになってきた。誰か、なんて言う必要があるだろうか? 勿論言うまでもなく宮野紗弥。彼女は私が竹田楓と談笑していると、話の盛り上がったところで私に抱きついてくる。その後は竹田楓がどこかへ行ってしまったり、紗弥が彼女と話し始めてしまったり。
私の自意識過剰なんかではなく、絶対に。紗弥は意図的に私と彼女の会話を邪魔している。他の人と話しているときにはそんなことをしないけれど、彼女とはなしているときは百パーセント、絶対だ。けれど、理由はわからない。紗弥は彼女と仲がいいようだし、邪魔する必要なんかない。或いは、もしかすると知られているのではないだろうか? 私が竹田楓と話す訳を。
そう思ってはっとする。私が竹田楓と話す理由? 五月蝿くて騒がしくて、意味の通らない、そんな彼女に好感を抱いているのは事実だった。彼女は話すのが上手くて、会話が詰まらずにずっと話していられる。彼女が話す内容も面白かった。好感を持つというのは寧ろ当然で、彼女と話したいと思う気持ちの裏付けにはなる。けれど、私のその思いはもう思いという枠を超えて、欲求にさえなっていた。彼女と話したい、という欲求。彼女を殴りたいという――欲求と共に。
紗弥の怪我は、まだ治らない。それまではこの状況を甘んじて受け止めるしかないのか。
机に突っ伏していると、紗弥が寄ってきて私に覆い被さってきた。うう、と呻き声を出してみると彼女は手を伸ばしてぎゅ、と抱きついてきた。
「重いよ」
んー、と覚束ない返事が返ってきた。はあ、と溜め息を漏らす。竹田楓の話も意味不明だけれど、紗弥だって何を考えているのか今ひとつわからない。体勢に耐えられなくなってきたので、一回彼女を引き剥がした。彼女は眠いのか、まっすぐ立たずにぐらぐらと揺れている。普段は酷く苛つかされるけれど、こんな状態のときは何故だか可愛いと思ってしまう。もともと小柄に童顔だし、栗色の短い髪の毛も確かに可愛い。
仕方がない、という顔をしてから膝の上をぽんぽんと叩いた。すぐに紗弥が座る。彼女を抱きかかえるようにして、前後に体を揺らす。ロッキングチェアの要領だ。紗弥はもう半分くらい寝てしまっている。
まるで頭の中に靄がかかってくるようで、考えがまとまらない。そもそも何を考えていたかさえ、思い出せない。まあいいか、と思いながら体を揺らす。
そうだ、そういえば――二年前に紗弥と出会ったときにも、こんなことがあった。悩まされていたはずが、いつの間にか忘れていた。胸の奥について離れなかったはずなのに。
紗弥が泣くまで殴りたいという、欲求が。