茶番狂言ステップ1

 こう目立つようなことをするのも、女の私が女の先輩にチョコレートを贈るのも、全ては先輩を困らせたいからなのだと思います。

「えーと、何? 話って」
 そう仰りつつも先輩の視線は私の持つ袋に。ピンクと茶色の可愛らしい、何も文字の入っていない小さな紙袋。普段はおしゃれな女の子がサブバッグにでも使いそうですが、それが今日であれば話は別です。今日はバレンタインデー。中身はチョコレートだと、そういったことに鈍い先輩でもきっと気がついてくださるでしょう。
 話があると言ったのは、人前で堂々と目立つように呼び出したのは、これが義理としてとか、友達としてだとか、そんなふうに捉えてほしくなかったからです。ましてや、他の女の子のように、同性の先輩に対する一時的な憧れに似た感情なんかと一緒にされては、私は黙っていられません。
「先輩、お話があると言ったのは……その……」
 歯切れの悪い私を、先輩は言葉になるまで黙って待っていてくださります。頬を染めて恥ずかしがる私を。恥じらいが駆け引きに大切なのはよく知っているので、私は精一杯恥らってみます。
「……あの、もし、ご迷惑でなかったら……これを」
 紙袋を先輩に差し出す私の手には絆創膏がぺたぺたと貼られています。よく漫画なんかで見る、あれです。先輩は見かけによらず漫画がお好きだというので、きっとこういうのもお好きなのでしょう。
 実は中身は昨日十五分とかけずに作った手抜きチョコレートです。けれどそんなところも、きっとお菓子作りの苦手な後輩が頑張った感じがして、いいでしょう。先輩も女ですから、手のかかった美味しそうなチョコレートはあまり快く受け取っては下さらないと思います。私が見るに、先輩は意外とプライドの高い方です。
「ありがとう」
 予想した通りの笑顔で先輩は仰ります。ここでタイミングを逃してはいけません。
「先輩!」
 先輩の手を握って、続けます。
「先輩、私は……その、先輩を……」
 上目遣いで、頬を染めて。あくまで謙虚に、淑やかに、あどけなく。
「先輩を、……お慕いして、います」
 そしてそのまま、図々しくも先輩の体に顔を埋めます。
「あ……」
「返事は結構です、先輩。
 その……いきなりこんなことをして、すみません。先輩を困らせないいい子でいようと思ったのに」
 よくもまあ、こんな白々しい真似ができるものだと、自分に呆れます。本当に。
 暫くの沈黙の後、先輩から離れて一礼をし、そして駆け出します。後ろは振り返りません。
 先輩は、困ってくださるでしょうか。
 先輩に他にお慕いしている方がいらっしゃっても、私は構いません。もしそんな方がいらっしゃるのならば、私はどうしましょう。知らない振りでその方と仲良くしたりして、やっぱり先輩を困らせてしまうのでしょう。そうするのが私はとても好きです。悪い子なのです。先輩の困っているお顔は、とても好きです。指に、先輩に触れたときの感触が少しだけ残っています。
 先輩は律儀な方ですから、ホワイトデーにお返しをくださるでしょう。そして先輩は優柔不断でもあらられますから、きっと私が言ったとおり、返事はくださらないでしょう。先輩にはぜひその優柔不断さが多くの人を傷つけているということを知っていただきたいものです。私のは趣味半分ですが、その実、半分は愛ゆえなのです。
 誰に対する愛か――。きっと先輩には理解できないでしょうから、口に出すのはやめておきます。